"争う"ということについて 2001.10

 秋の爽やかな気候とは裏腹に、テロから報復戦争へと連日の報道に気分が塞ぎます。安全で快適なリビングで、痛ましいテロや戦争の映像を見る…。そういう時代に生きているのだということにも改めて気付かされました。優しい子に、思いやりのある子に、仲間と助け合える子にと、たくさんの愛情を注いで育てている子どもたちに、(アメリカの子にも、アフガンやパキスタンのに子も、日本の子どもたちにも)大人の争いをどう説明したらいいのでしょうか。人は、分け合う事も出来るが、また奪い合うこともする生き物であるという事実は、大人であるわたしも、今だよくわからないでいます。
 今月に予定していたのは"おいも特集"だったのですが、大人として、子どもたちに何かを発信していけたらと思い,急遽変更いたしました。重たいテーマですが、どれか1冊でも手にとって頂けたら嬉しいです。

バックナンバーリストはこちらをご覧下さい。




サルビルサ SARUBIRUSA

スズキコージ作・絵 
架空社 ¥1,500.(本体)
横23×縦30p
対象:幼児から
 男がひとり、獲物を追って馬を駆けていました。"MOJIMOJIMOJI!"ところが別の民族の男も、この獲物を狙っていたのです。"JIMOJIMOJIMO!"二人の射た矢は同時に獲物に当たり、"SARUBI!""BIRUSA"と言い争った末、互いの王に訴え、王はどちらも兵をを引き連れて"MOJI!""JIMO!"獲物を取り返しに向かうのです。二つの軍勢は獲物を巡って"SARUBI BIRUSA SARUBI BIRUSA・・・"闘います。日本語は一言も使われず、スズキワールドの言語であるらしいこのふしぎな言葉が十分に語って、読者である子どもたちを沸きに沸かせます。闘うなとは一言も書かれていませんし、見方によっては好戦的かもしれませんが、最後に獲物をさらう一羽の大きな鳥が闘い破れた男たちを嘲笑うところで、子どもたちに一瞬の沈黙が生まれます。無邪気なことば遊びの絵本とも、戦う者たちの愚かさを笑う反戦物語とも取れる、不思議な作品です。




トビウオのぼうやは

     びょうきです

いぬいとみこ作・津田櫓冬絵
金の星 ¥1,200.(本体)
横24.5×縦23.5p
対象:幼児から
  青い南の海、静かな珊瑚礁のそばにトビウオの親子が平和に暮らしていました。父さんトビウオが出かけたある朝、まるで太陽が二つになったかのように海が真っ赤に染まり、ずずずずずーんと恐ろしい音が響いてきました。それっきりまた静けさの戻った海には空から灰が降り始め、トビウオのぼうやは面白がって、その灰の中を飛び歩いたのです。やがて「なにか恐いものが爆発して、とうさんトビウオたちは吹き飛ばされてしまったらしい!」と知らせが伝わり、爆発で死んだ魚が潮に流されて来るようになりました。悲しむ母さんトビウオ。でも悲劇はこれだけでは済みませんでした。白い粉をかぶって遊んだトビウオぼうやが、病気になってしまったのです。体にはぶつぶつができ目は濁り、うわごとを繰り返すぼうや。「どうしてわたしの坊やは、こんな病気になったのかしら?どうして平和な海の国に、こんな恐ろしい事がおこるのかしら?」





 

わたしのせいじゃない

     −せきにんについてー

クリスチャンソン作 ステンベリー絵 にもんじまさあき訳
岩崎 ¥900.(本体)
横15.5×縦18.5p
対象:小学生から

 教室でひとりの男の子が、いじめられて泣いています。そして、クラスメートたちは言っています。「わたしのせいじゃ ないわ」「どうしてそうなったのか ぼくはしらない」「僕は恐かった。見ているだけだった。」「ひとりでは止められなかった。わたしのせいじゃないわ。」「始めたのは私じゃない・・・」「自分のせいじゃないか、その子が変わってるんだ。」そうして、このモノクロの絵の短いお話しが終わった後に、何枚かの写真があります。こちらは大人の社会。「処刑されるゲリラを見て笑っている兵士」「三輪車ごと軍用車に轢かれてしまった小さい子ども」「立ち昇るおおきなキノコ雲」・・・。言葉で、あなたにも責任が有るでしょう!と責められていないだけに、心にズンと沈む作品です。





オーじいさんのチェロ

カトラー 作・コーチ 絵 タケカワユキヒデ 訳
あかね書房 ¥1,400.(本体)
横22×縦28p
対象:小学生から

 

戦争に巻き込まれ、女と子どもと年寄りばかりになった街。建物は破壊され、食料の配給も滞りがちです。そんな時、偏屈に閉じこもって暮していたお年寄りのオーじいさんが、広場でチェロの演奏を始めました。街に残った人たちは音色に励まされます。オーじいさんをからかうことでウサを晴らしていた少女も、その音色に耳を傾け、戦争に行った父さんと過ごした時間を思い出していました。が、空襲でそのチェロも破壊されてしまいます。するとオーじいさんは、今度はちいさなハーモニカを持って広場に現れました。そのハーモニカの音色もやっぱり、女の子や街の人々の心を満たすのでした。(この作品は、2001.4月の新刊コーナーでもご紹介しました。)